備忘録

お笑いが好きです。

キングオブコントは吉本贔屓の大会ではない/14年目のルール改革に寄せて

 

 

 

はじめに

 

 お笑い芸人がコントの面白さでしのぎを削る大会「キングオブコント2021」が始まっている。今年からユニットでの参加が可能になり、大会の形が大きく変わるだろうという意見を度々目にした。そこで、この大会が変わってしまう前に、筆者がずっと考えていたことをここに記録したい。

 

 

 

 

キングオブコントは吉本贔屓なのか?

 

 昨年のキングオブコント2020・ファイナリストの10組中、ASH&D所属のザ・ギースを除いた9組が吉本興業の芸人だった。筆者がざっと調べたところによると、2020年大会はコロナ禍になってから初めての開催であり、劇場を持たない事務所に比べて、劇場出番がある吉本興業所属の芸人が有利になったという側面があるらしい。

 しかし、それ以前からキングオブコントは、吉本興業、特に東京吉本の芸人に多少のアドバンテージがある大会なのではないかと筆者は考えていた。KOCと同じく大会運営を吉本興業が行い、漫才の面白さを競うコンテスト「M-1グランプリ」でも吉本芸人が決勝に数多く勝ち上がる場合があり、「吉本贔屓だ!」という声を聞くこともある。けれども、筆者はM-1よりもKOC、厳密に言うと、KOCの準決勝の方が吉本芸人に有利だと感じる。

 

 そう考えた理由は漫才とコントの違いにある。漫才はサンパチマイクさえ舞台上に置いていれば、後は芸人の身体があるだけで良い。そこに事務所間の差異は生まれない。しかしコントは、設定や内容にもよるが小道具が使われることが多い。

 公式サイトの参加規定(http://www.king-of-conte.com/2021/rule/)に載っている通り、基本的にKOCでは芸人自身が持ち込んだものと、テーブルやイスといった最低限の貸出セットの小道具を使用して予選を戦っていく。残念ながら筆者はKOCに出場した経験がないので推測するしかないが、準々決勝までは綿密なリハーサルや音声チェックはなく、吉本と他事務所の違いはあまりないはずだ。吉本芸人の優位性は、決勝への切符を手にするかどうかの戦いである準決勝から発揮されると考えられる。大きい会場で2日間にわたって実施される準決勝では、朝早くからリハーサルが行われ、小道具のセッティングや音響・照明の確認がある。そして、吉本芸人は普段、ルミネtheよしもとや無限大ホールで使用している小道具をそのまま準決勝の舞台で使えているのではないだろうか。大会運営を吉本興業が行っているので、当たり前といえば当たり前のことではある。舞台監督や進行といったスタッフも普段から吉本の劇場で働く方々が携わっているのだろう。

 もちろん、他事務所の芸人も小道具をきちんと用意して搬入すれば、吉本芸人と変わらず万全の態勢で準決勝に挑むことは可能である。だが、他事務所に所属しながらちゃんとした小道具を使ったネタを作れるのは、ある程度の芸歴や実力があり、天井の高い劇場で単独ライブを開催できる限られた芸人だけだ。昨年決勝進出したザ・ギースや、過去のファイナリストで言えば、ロッチ(ワタナベエンターテインメント)やラバーガール人力舎)などである。少なくとも、その年初めて準決勝に勝ち残ったような10年目以下の若手芸人には難しいと思う。

 例えば、暗転板付きで舞台上に2人が座っているネタをやるとする。そのとき座っているのがパイプ椅子の場合、警察官や学生服など特徴的な衣装でなければ、観客は場所がどこなのか、人物の関係性は何なのか、何もわからない状態で始まることになる。設定がわからないことをフリにしたネタではないなら、ソファーや公園のベンチ、車の座席など、わかりやすい小道具があった方がいい。設定を伝えるための説明台詞が必要となるからである。そもそも、小道具なんか使わなくて済むコントをやればいい、という考え方もあるのだが。

 

 つまるところ、KOC準決勝では小道具が必要なコントを披露するなら小道具があった方が有利であり、普段から劇場で使用している小道具を使える吉本芸人に対して、他事務所の若手芸人には少しのハンデがあると筆者は考える。初めに東京吉本と書いたのは、準決勝の会場が東京なので、大阪吉本所属の芸人よりも使い慣れた小道具を使えるはずだからだ。

 「キングオブコントは吉本贔屓なのか?」という質問の答えとしては、キングオブコントが吉本贔屓なわけではないが、KOCの準決勝においては他事務所の若手芸人が不利である、と考えられる。

 

 

 

 

キングオブコントは他事務所が決勝へ勝ち上がれない大会ではない

 

 上記の通り、筆者の考えを示したが、キングオブコントは決して他事務所の芸人を他事務所所属だからという理由で、準決勝で落とすような大会ではないとも思う。実際、吉本興業の芸人が数多く準決勝に進出していたにもかかわらず、ファイナリスト10組のうち吉本芸人が半分以下だった年が何度もある。それと同じように、今年の大会規定変更で出場可能となった即席ユニットも、順調に勝ち進んで準決勝で跳ねれば、当然ながら決勝進出もありえるだろう。

 

 これまでよりもお祭り色が強くなり、猛者ばかり集まることが予想される準決勝で、あまり知名度がなく小道具もない若手芸人がどういう戦い方をすべきか、芸人でも何でもないが筆者も考えてみた。衣装だけで何とかなるコントやテーブルとイスさえあれば済むコント、夢の世界の設定や時空を超えることで小道具を必要としないコントなど、色々とやりようはある。

 以前のKOCはネタ時間が今より短い4分で、物語を展開させるには厳しいという意見もあったらしい。しかし、5分になったところで何かが変わったのかと言われれば、一観客としては、そんなに変わっていないのではないかと思ってしまう。4~5分という短時間で、観客に設定を理解してもらい、振って、ボケて、最後は落とす、そんなコントを何本も作って演じている芸人の皆さんの凄さを改めて感じる。

 

 そこで筆者が思い出したのが、タイトルコールである。かつて、関西の方のコント師はネタの前にコンビ名とネタのタイトルを影マイクで言う傾向があった。そのシステムはいつからかそれほど見なくなったが、関東のコント師にも、ネタの序盤にタイトルコールを入れていたツィンテル(解散済み)などがいた。タイトルを先んじて発表することで、状況説明のセリフを割愛できて、最初のボケまでの時間が短くて済むのがメリットだと考えられる。

 なかでも印象的なのが、KOC2012で披露された、さらば青春の光の「ぼったくりバー」だ。「さらば青春の光です。コント、ぼったくりバー」というナレーションで始まるコントである。ずいぶん昔のコントなので、もう各所で語られ尽くした話題かもしれないけれど、この少しダサくもあるタイトルコールが設定の説明、なおかつネタのフリになっている。タイトルコールによって観客は素早く設定を飲み込み、その結果コントへの没入感を上げるのだが、このコントでは設定を「ぼったくりバー」と知らせて、その「ぼったくり」の度合いでボケ続けた上で、なおも登場人物がしばらく「ぼったくり」と言わないことで期待感を煽り、いざその言葉が出たときの爆発力を高めることに成功している。戦略的によく練られたコントだと思う。

 このコントを例にすると、もしタイトルコールなしで始まった場合、2人のいる場所がバーだと伝えるセリフや、客がそれまで店で飲んでいたことなど、見ている人に知らせておくべき事象が生まれてしまう。先にタイトルを伝え、明転時に客が既に寝ているという演出で、観客に簡単に状況を理解させることが出来ているのだ。また、タイトル自体がこのネタの根幹である「ぼったくり」のボケに対するフリの役割を果たしているので、ボケの前の冗長なやり取りが不要になり、すっきりした構成になっているのも大きい。タイトルを伝えて「バーで飲んだらぼったくりされた」という前提条件を提示し、観客に「ぼったくりされるんだろうな」と想像させることで、一番重要な「ぼったくりバーのぼったくり具合がえげつない」というシュールなボケを笑いやすくしているのではないだろうか。

 

 さらば青春の光は優勝こそ叶わないまま、大会を卒業しているが、最多決勝進出6回の記録を持っている。そして、彼らは吉本興業所属の芸人ではない。また、さらばを含め、出場時点で事務所に所属していないフリーの芸人(夜ふかしの会ゾフィー)が決勝に勝ち上がったこともある。このことからも、準決勝の審査において吉本かどうかは関係ないと言えるだろう。

 

 

 

 

コントは“何でもあり”のジャンル

 

 昨年末の「M-1グランプリ2020」で優勝したマヂカルラブリーのネタに関して、「漫才か漫才じゃないか論争」が起きたことは記憶に新しい。各所であらゆる議論がなされたと思うが、漫才の可能性と同様、コントの可能性も無限大であると筆者は思う。

 キングオブコント以外の賞レース、例えば、「R-1グランプリ」の決勝で披露されているネタにはコントも多い。残念なことにKOCは1人での出場を不可としているが、1人コントをやっているピン芸人は数多く存在する。また、M-1で言うならKOCでも準優勝しているサンドウィッチマンの優勝時の漫才など、フォーマットを変えればそのままコントにすることができる漫才もある。

 逆に、KOC決勝で披露された2700やにゃんこスターのネタは、どういう種類のお笑いなのかカテゴライズしにくいが、紛れもなくコントではある。こういった特殊なコントと、会話劇で静かに笑いを誘うようなコントを、同じ尺度で審査するのはとても難しいだろう。そう考えると、KOCはあらゆるタイプのコントを真っ当に決勝へ進出させているように感じる。

 

 そして、今年のKOCは即席ユニットの参加が解禁された。知名度が高い芸人ほど、観客がよく笑ってしまうことが懸念されるが、これは観客の態度の問題ではなく、単純接触効果などもあり、知らない人たちのコントよりも知っている人たちのコントの方が受け入れやすいものなので仕方ない。しかし、4人以上のユニットのコントは、登場人物を増やせるぶん、ボケや展開の幅が広がる。去年までの大会では無かったようなコントが必ずしも見られるとは限らないが、即席ユニットならではの一点勝負ネタと出会えるかもしれない。単純に倍率で考えると、既存のコンビやトリオは去年までよりも厳しい戦いになりそうだが、観客にとってはさらに楽しみな大会になるのではないだろうか。

 

 筆者がお笑いのネタの中で取り分けコントを好きな理由は、どんなことをしても許容してくれる、その懐の深さにある。極論、センターマイクを小道具として使っても、それをコントらしく見せることが出来るなら、それはコントになり得る。そんな“何でもあり”が魅力のコントで、KOC2021では芸人たちがどういった戦い方をするのか、期待で胸が膨らむばかりだ。

 

 

 

 

最後に

 

 筆者の頭の中でぐるぐると考えていたことをざっくり言語化しただけの内容だったが、もしもここまで読んでくださった方がいたとしたら感謝を伝えたい。ありがとうございます。

 準々決勝・準決勝はコントだけのネタライブと仮定すると豪華すぎるメンバーで、しかも本気で叩き尽くしたコントをたくさん見ることが出来るので、お金と時間に余裕があれば行って損はない。会場に観に行くことを強くおすすめします。

 

 

 

 

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このブログにはキングオブコントの大会運営方法や、これまで出場したお笑い芸人の皆さんを貶める意図は全くありません。

また、誤情報や勘違いしている点があれば、ご指摘いただけると幸いです。